染織あれこれ(52)
様式美と絵画美
「歌舞伎衣裳」(かぶきいしょう)《い》

●杉戸に描かれた『暫』鎌倉権五郎の衣裳
歌舞伎座2階ロビーに展示 個人蔵 15/1/12


 わが家の正月、吉例は歌舞伎座観劇。

 今年は出雲の阿国(おくに)が、京都四条河原で念仏踊りを演じてから四百年目に当たる。
 歌舞伎四百年『寿 初春大歌舞伎』の演目、昼の部は瀬戸内寂聴新作の「出雲の阿国」。記念の年にふさわしい幕開け。
 阿国は福助、山三が菊之助。一座の少女たちが艶やかに踊る輪の中に阿国が男髷(まげ)男の衣裳。ビロードの男帯を前で結び、胸にはクルス。男装の麗人だ。

 豪華な顔ぶれは当代一流。弁天娘女男白波に團十郎、菊五郎、幸四郎、松禄、團蔵、田之助たち。
 歌舞伎十八番「矢の根」に三津五郎、橋之助。「京鹿子娘道成寺」は玉三郎と役者が揃う。ファンには堪えられない大顔合わせ。
 長唄舞踊の「道成寺」。玉三郎はしだれ桜に金糸で雲井カスミの縫い取り刺繍。同柄の大振袖は黒字と白地を場面によって変えながら女心を踊り分ける。

 歌舞伎の美しさの楽しみの一つは扮装にある。

 弁天小僧が浜松屋の見世(店)先に高島田、黒の振袖、武家娘姿で若党を供に登場。実は女装の盗人。これを見破られ「知らざぁー言って聞かせやしょ…」と本性を現すところが見せ場。
 帯を解き、大あぐらをかきながら片肌脱げば、桜の刺青が鮮やか。華やいだ呉服屋の店先に黒地の振袖を脱いでの"白い肌"、緋縮緬、赤の長襦袢に彫物の青は肉襦袢。
 盗人と見破る黒頭巾の侍は茶色の着物に緑の袴、黒紋付き。現代歌舞伎の「影を出さない」"ベタ明かり"の照明に、衣裳が映える。

 古典劇の衣裳は大道具と同様に定式がある。どの役に何を着るかという、決まり切った枠があるが、昔の人の考えた色彩感覚の巧み豊か、妙味に眼をみはる。

 「勢揃い」では様式美。そのまま押し絵羽子板のような『絵画美』。五人男が独自の柄の衣裳でずらり花道に並んで壮観。

 理屈抜き、今年は春から縁起がいい。

(つるや伊藤・伊藤吉之助)

船橋市民新聞 2003年 2/10発行 第52号