染織あれこれ(28)
五千種の“心の拠り所”

「家 紋」(かもん)

《ろ》

伊藤 吉之助(つるや伊藤)

●十代目の提灯にも「三つ大」の紋
  歌舞伎座・祝い行灯前 13/1/14

 寿初春大歌舞伎、今年も家族揃っての観劇。新世紀の幕あけに八十助改め坂東三津五郎の襲名公演。十代目人気のせいか和服姿が多く華やか。吉例の「祝い幕」には縁起の良い束(たば)ね熨斗(のし)に坂東の『三(み)つ大(だい)』の紋が染め出されている。

 坂東の紋は二つある。太い大の字と細めスッキリの紋。「舞踊家元として太い方、役者・三津五郎は細い方」を使う。と、踊りの師匠達に聞く。紋帖にもそう著されているが、さて、どうか。祝い幕は見慣れた家元の紋だった。十代目三津五郎の踊りは若い頃から華麗で優美と有名。横二十六×縦六・五mの大舞台には映えるのかもしれない。機会があればご本人に、紋の扱いや由来を聞いてみたい。

 紋章は諸外国にもあるが、日本の紋は「家」との結びつきが基本。家との関係を表している。″紋所(もんどころ)″とも言い、総称して『家紋』と呼ぶ。紋帖にある数は五千位 。種類は「器物・自然・文字」はじめ、あらゆる物の意匠化。植物が多いのは四季美しく自然に恵まれた日本の現れだ。

 衣服に紋をつけるのは日本独自と言われ「紋付き」が代表格。一つの家で複数の紋を持ち公式の紋は『定紋(じょうもん)』と言い、婚姻などで新たに加えられた「控え紋」(裏紋・替紋)、又、女性用の「女紋」もある。最近、一般 家庭で紋を染めて額装やタペストリー、暖簾(のれん)に誂えるご注文が多くなった。

 飲食店などが暖簾に紋を入れるのは珍しくもないが、京都や加賀と違い関東では、そう多い事ではなく、嬉しい。

 家の新築や慶事の機会に暖簾を新調される方。実家の母親に家紋入りの風呂敷をプレゼントされる人。時には、家紋が判らず、セピア色の古い写 真などから″鑑定″を頼まれる事もある。紋章の専門家は「上絵師(うわえし)」だが僅かな手がかりで見事に割り出し『紋鑑』を拵える。紋章の正確な伝承に配慮で、喜ばれる。

 伝統、名跡(みょうせき)を重んずる歌舞伎の世界でも、市井(しせい)、一般 家庭でも「家紋」をアイディンティティ、心の拠り所とすることは変わらない。

船橋市民新聞 2001年2月/1発行 第28号