染織あれこれ(41)
暮らしの中に潤い
「型絵染」(かたえぞめ)《ろ》
伊藤 吉之助(つるや伊藤)

●「モスクワ赤の広場ワシリー寺院」
■椿 夏子 平成元年作品
 狛江市の東朝子さんから「父 椿貞雄、夏子展があります」───と、寒中見舞いを戴いた。「私だけなんとか元気、ほんの少し協力」と、続いている。

 椿貞雄先生は山形県米沢の出身。岸田劉生に師事、草土社創立同人。後に千葉県美術会も結成。慶應幼稚舎や船橋小学校の図画教師もされ、アトリエは船橋駅の北口にあった。

 私は幼い頃、二女の夏子さんの所に『お絵かき』に通っていたが、先生は染物にも興味を持たれ、時々私の家に立ち寄ることがあった。手拭いや浴衣の染モノ技法は『注染』というが、注染に使う糊筒(のりづつ)に関心を持たれた。

 お稽古の日「油絵に使うから…」と、糊筒を持って行くよう、父に命じられた事を今も憶えている。
 先生は晩年、油彩に水彩もされていたが、しかし、絵の具を筒に入れキャンバスに描くところは見た事がない。

 今、思うと、お稽古場は歩いて十五分の所だが、幼児の足には少々遠い。先生と父が示し合わせた、私の″ズル休み対策″だったのかもしれない。

 その甲斐もなく、私のお稽古は四、五年で終わった。

 夏子さんが「型絵染」をされてる事を知ったのは、先生の生涯と芸術をまとめた『画道一筋』を読んだ時。懐かしくて堪らず、著者で美術評論家の東珠樹さんの奥様、長女朝子さんに電話を入れた時だった。

 人間国宝の芹沢けい介さんに長年師事。今回、船橋市主催の『清川記念館収蔵作品展・親子展』には、狂言師野村万作のソビエト公演の肩衣も出品と云う。どんな出来映えだろう、さぞ素晴らしいだろう。楽しみ。

 日本人の生活に生き続ける染物を美術芸術に昇華させ、身近な暮らしに潤い与える型絵染。衣装だけにとどまらず、のれん、壁掛け、屏風などと、今、多くの人々に楽しまれている。

 朝子さんから「展覧会へは是非出かけたい」の便りが届いた。

 「清川家、砂川家の方々の芸術への愛情が地元文化の基を作り、又 これからは、伝統を守り家業を発展させている伊藤様が、次の時代を作ってゆく主役と思います。」──とある。

 椿先生親子は船橋文化の″ルーツ″の一つ。愛する地域の文化伝承創造に、私も微力ながら尽力したい。
船橋市民新聞 2002年 3/1発行 第41号