染織あれこれ(40)
下町風情のふだん着
「黄八丈」(きはちじょう) 《い》

●純粋〃草木染め〃の「黄八丈」
■つるや伊藤・正月の店先 14/1/2
 正月二日、家内と娘を連れて墨田の「七福神巡り」に行った。
 娘は黒衿ををかけた「黄八丈」の着物。黒繻子(くろじゅす)の腹合わせ帯を締めれば本格派―。だが、これでは″いかにも″で、嫌味。真綿紬の名古屋帯を合わせた。

 黄八は伊豆七島、東京から300キロ南に位置する八丈島の名産。千年も前から島の自然を染に活かして織り続けられている。

 国の伝統的工芸品に指定されているが、八丈島に自生する草木を染料とした純粋の草木染め。絹糸を「黄」や「樺(かば)」「黒」に染めすべて手織り。柄は縞や格子。シンプルだ。

 黄色は苅安(かりやす)を用い、茶褐色の「鳶色」はマダミの樹皮から色出し。黒は椎の樹皮。「鳶八丈」「黒八丈」と区別もするが、これらを『黄八丈』と総称する。

 ところで、時代劇の場面に黄八で黒衿の「町娘」がよく登場するが果たして本当だったのだろうか。

 私が京都の無地染め屋で修行中、奉公先の親方に「関東は着物に黒繻子かけて泥臭い」。田舎臭いと言われたことがある。少なくとも、京都では黒衿をかける習慣はなかったようだ。

 東京も明治になってからの事らしい。太秦の映画村で「町娘変身扮装」は小紋でも何でも黒衿をかける。ドラマの衣装。ファッションだから風情、雰囲気。

 明治の日本画に黄八に黒衿かけたきもの姿がある。描いたのは鏑木清方。一葉の代表作「たけくらべ」のヒロイン・美登里が作者の墓前を訪れたところの図。

 作中人物が作者の墓を詣でる事はありえないが、メランコリックで、才能あって早逝した一葉への想いか。黄八はふだん着。町娘ではなく″下町娘″か。

 七福神、百花園で雪に降られたが、墨堤から足を延ばして浅草へ出た。観音様の初詣。和服姿が多い。
 下町には、黒衿かけた「黄八丈」が良く似合う。
船橋市民新聞 2002年 2/1発行 第40号