染織あれこれ(24)
“男”のフォーマルウェア


「黒紋付き」(くろもんつき)
《い》

伊藤 吉之助(つるや伊藤)

●津軽三味線・澤田勝山さん
■三味線を持つ舞台演奏に、羽織は着ない

 9月10日、「澤田勝秋リサイタル」に中野サンプラザへ行った。開幕は澤田連合会二百名総出演「津軽甚旬」の大合奏。二千二百二席、満席の観客を魅了する。この日、名取り披露が3人。人気歌手の長山洋子さんもその一人だが私どものお客さま、神崎芳比古さんが『澤田勝山』を名乗り、見事な津軽じょんがら節を披露した。

 襲名披露ともなれば礼装。男性の礼装は既婚、未婚、慶弔の区別はなく染め抜き五つ黒紋付きの「羽織と袴」。角帯は無地の紋織、錦織(にしきおり)か博多献上(はかたけんじょう)。羽織の紐や足袋は白。これが″男の″第一礼装。

 神崎さんがご来店戴いたのは今年三月。本業は警備会社の社長さん。三味線修業のかたわら福祉施設を訪問、ボランティアで演奏されている。津軽民謡の巨匠、澤田勝秋さんの門を叩いたのは五十歳を過ぎてからという。直弟子三年での名取り。さぞ厳しい稽古に耐えての事だろう。

 礼装紋付きの長着は、重めの正絹羽二重の白生地を黒に染めるが、黒の色は一度に出さず何度も重ねて深くする。紋章は澤田一門の「丸(まる)に隅立四(すみたてよ)つ目(め)」を日向紋で五つ染め抜き。羽織は長着とお対の黒紋付き。羽裏(はうら)は墨絵で描いた「額裏」をつけた。紋のサイズはは女紋より大きく鯨尺(くじらじゃく)の1寸(約38センチ)。ちなみに女性の染め抜き紋は5分5厘(約21センチ)。いずれも昔からは小さくなっている。

 袴は仙台平(せんだいひら)。張りのある縞柄だが舞台映えのハデさをねらわず、格式ある細めの縞を選んで、裾捌き良く内股を仕切る馬乗り仕立。角帯は手織りの献上。加工も仕立も入念に、熟達職人が気合いを入れた″お支度(したく)″は、津軽民謡・迫力ある撥(バチ)さばき、襲名披露を一層引き立てた。

 きものは高価といわれるが、キチンと手入れをすれば、孫子の代まで着続けられて経済的。黒紋付きは、結婚式の花婿、仲人、父親に限らず公式の席にふさわしいフォーマルウェア。きものは、直線裁ち、形は変わらず体形に合わせて仕立替えもできる。流行に左右されない日本人の装い。

船橋市民新聞 10/1発行 第24号