染織あれこれ(49)
舞台と楽屋の「結界」
「暖簾」(のれん) 《は》

●機能的な「二つ割り」の楽屋のれん
後援会の皆さん 14/10/14


 最近、インターネットでの注文や問合わせが多い。
呉服・悉皆(しっかい)から旗・幕、舞台と様々だが、二、三年前には考えられなかった。ITが手軽、便利で身近な時代だ。

 電子メールは匿名性で顔も見えず、色々尋ねやすいようだ。直接商いにつながらなくても、迅速に誠実に応えるよう心がけている。

 七月、お祭りの真っ最中。ホームページを見たと、川崎市の田中登美江さんから『楽屋のれん』の問合わせが入った。「歌謡ショーだが、正月一カ月公演に使いたい」。との事だった。

 楽屋のれんと言えば思い浮かぶのは歌舞伎の世界。おもに贔屓筋から役者さんに贈られるもの。控え室に掛けられるので、一般の目に触れにくいが、歌い手さんの公演にも必需品だ。

 電話では、暖簾に使用する生地、名前の入れ方、染め加工、そしてお値段。田中さんは公演歌手がどなたとはおっしゃらず、後援会で贈りたい。とのお話。

 人気歌手の山川豊さんと分かったのは、一カ月後の事。お仲間とご一緒にご来店の時だった。さらにご要望を承りデザイン、仕立てなどの打ち合わせを重ねた。 

 ステージの「緞帳」は結界。緞帳は客席と縁者を区切るものだが、楽屋のれんは舞台と楽屋の「結界」。舞台を公とすれば、楽屋は私、プライベートの空間。

 舞台で精一杯、観客を楽しませ、楽屋は緊張を解き放つ場所。のれんは公私の「間仕切り」だからリラックスできるように、本人の好きな色。毎日の事だから飽きの来ないものが好ましい。

 紫色に浅葱と草色の三枚を誂えたが、三枚とも地色に『山川豊さん江』を染め出して贈りものの印の「熨斗」は入れず、「後援会より」の白抜き一色。サッパリとした山川さんのご気性が表された。

 昭和五六年、函館本線でデビュー以来大活躍の山川豊さん。名古屋・中日劇場は田川寿美に橋幸夫を迎え、座長公演。正月二日からの新春特別、盛況を祈ります。

(つるや伊藤・伊藤吉之助)

船橋市民新聞 2002年 11/10発行 第49号