染織あれこれ(32)
“洒落と心意気”で開花

「印染」(しるしぞめ) 《い》

《い》

伊藤 吉之助(つるや伊藤)

95歳、俳優・島田正吾の筆文字
港区・新橋「楽(がく)屋」13/4/25

 「染物」といえば和服のイメージ。京染や江戸小紋などの「キモノ」を連想される方が多い。しかし、私たちの身の回りにはたくさんの“染物”があります。  最近、三十年、四十年ぶりのお客様が少なくない。嬉しい事だ。「店を閉めようとしたが大卒の孫が後を継ぐ、袢天を新調」という瓦屋さん。注文の控に昭和四十五年の伝票がある。探せば型も有るかもしれない。

 かつて船橋ロータリークラブでは正絹塩瀬羽二重にマークや名称を別染め、余白に椿貞雄画伯や右島四郎先生が船橋のワタリガニを墨で手描きの「バナー」を制作。今度、五十周年を迎えるにあたりご検討の話もあるというがこれも染物。

 祭袢天、風呂敷、袱紗(ふくさ)、暖簾(のれん)、幟(のぼり)など、それぞれにデザインや色彩に工夫を凝らした染物を『印染(しるしぞめ)』と呼ぶ。“インセン”と言う地方もあるが関東では馴染みが薄い。紋章や記号・マークを染め出して目印とする標旗。スローガンや“檄文”に知恵を絞る横断・懸垂幕など。数えればきりがない。

 印し染めが盛んになったのは江戸時代、“洒落と心意気”で開花した。江戸庶民の旗印と呼ばれる印袢天に代表されるが『シルシ』が意匠として活きるのは「手拭い」。飲食店や企業の営業ご挨拶、名刺代わり、町内会のお祭りなど、粋でおシャレなデザインが多い。

 居酒屋・淀屋さんは「酒・食・温・和・心」の文字を篆(てん)書体で全体に散らし筆文字で店名を入れて、紺地の白抜。新橋・楽屋さんは「仕事きびしく楽屋楽しく」の指定書体を白地に墨文字で染め出した。店主の貫太郎さんは新国劇の役者。九五歳で今も現役、俳優・島田正吾のお弟子さん。開店祝いに師匠に書いて貰ったメッセージ、島田の縞(シマ)をもじって「銀座の柳」を緑で表した。 古く、貴重で膨大な資料を最新の技術で活用。染織の文化、現代に役立てたい。

船橋市民新聞 2001年 6/1発行 第32号