染織あれこれ(47)
「古来から暮らしの知恵」
「染替え」(そめかえ) 《い》

●大釜で無地染め(浸染)H14/9/2

 最近、洋服類の染め直しの問い合わせが多い。先日もシルクベルベットのコートを「水玉模様が気に入らないので黒く染め直したい」というメールが入った。

 「完全に黒でなく、水玉が薄く残っても構わない」と続いているが、洋服の丸染めは難しい。諸条件をクリアしないと洋服類の「丸染め」はお断りしていると、返信メールを送った。

 丸染めは仕立て上がったままで染め上げる事だが、「炊(た)き染め=浸染」といって染料を調合し、大きな釜で煮て染める。

 諸条件というのはまず、素材は天然素材。ウール、木綿、麻、絹などの天然素材。今回はシルクというので、物理的には可能な訳だ。

 但し、仕立てたままなので収縮、ほつれ、型くずれが心配。生地の織り方がベルベットともなれば滑らかなツヤが特性。風合い、持ち味を損なう恐れがある。

 これまでもスーツやブラウス、スカートなどを持ち込まれ染める事も少なくないが、これらの事情を説明し「どうなっても良い」というご了解を戴いている。

 なんとも無責任に聞こえるかもしれないが、やってみないと仕上がり状態が分からない。保証がない。業界では「成行加工」と言うが、いずれにしても品物を拝見してからとした。

 和服の染め替えは全て、着物等を一旦解いて反物の状態にしてから、各種染め替えを行う。そしてキチンと仕上げをし、仕立て上げる。

 正絹の白生地を小紋や訪問着、紋付き、無地染め等を行う事が『お誂え染め』。ハデになって年齢に合わなくなったり色ヤケ、しみ、汚れ等で着られなくなった時に染め替える。

 絹物を還元漂白、色抜きして親から娘に、娘から孫への染め替えを日本人は古くからやってきた。そのまま色掛の方法もあるが、資源や物を大事にする日本の文化であり、知恵だろう。

 持ち込まれた水玉のコートは幸い、綺麗な真っ黒に染まり、大層、喜ばれた。

(つるや伊藤・伊藤吉之助)

船橋市民新聞 2002年 9/10発行 第47号